バイク便を続ける

バイク便には何故か色々な人間が集まっていてとても面白かった。他に何かをやりながら資金作りや生活の為に仕事をしている人が多かった。例えば、海外のラリー、オフロードレース、サーキットレース、ミュージシャン、漫画家、役者、映画制作、カメラマン、ギャンブラー、苦学生等々。仕事の後には気の合う同士でよく酒を飲んだ。

長雨大雨、真夏の猛暑、真冬の雪や極寒などに閉口しながらも面白い同僚がいたお陰もありバイク便を続けていた。しかし、またもや新車だったGPZ250Rは一年も経たない内にだいぶガタが目立ってきた。もう長くは持たないかもしれない。ちょうどそんな時、事務所のライダー待機室の壁に「バイク売ります」の貼り紙を見つけた。

それには、「仕事で使用していたVT250F、買い換えの為不要になったので売りたし。エンジン絶好調、140Km/hオーバー、5万円でどうだ!」と書いてあった。 オイオイ、バイク便で使ったうえにそんな古いバイクで140Km/hも出したら自殺行為だぜ。冗談きついなー、と思ったが貼り紙の主は仕事仲間でラリーをやっている元白バイ隊員だし、走行距離は結構行っていたが「エンジン絶好調」だけはまんざら嘘でもなかろう。

値段が安いので、悪くても五日も仕事で持てば十分に元は採れそうだ。いざという時の予備の為にも買っておく事にした。

HONDA VT250F
水冷DOHC 4バルブV型2気筒、35PS。
1982年6月発売。

確か買ったのは1988年終り頃。
走行距離は、45,000Km位だったかなー。

その後GPZ250Rは結構持ったが、いよいよやばくなったので部品取車にするという同僚に譲った。

往年の名車VT250Fに荷箱を付けて仕事を始める。
エンジンは特に問題無かった。古いバイクなのでパワーも劣っているしブレーキの効きも悪かったが、買った値段が安かったのでそんなに気にならなかった。

サイドスタンドは妙な位置にあり使いづらかった。また、サイドスタンドを掛けた状態で重いものを積んだり、体重の掛け具合が悪かったりするとバイクが簡単に倒れた事が時々あった。また、夕立などの突然の大雨に遭うと漏電して片方のエンジンが死んだりもした。無理矢理走っているうちに乾けば元に戻った。

当初の予想以上にこのバイクは持った。さすがホンダ車だと感心した。結局半年以上仕事に使ったと思う。ずいぶん稼がせてもらい助かった。

そして、また新しい仕事用のバイクを探す。バイク屋に10万以下の安い物はないか聞いたら下取りしたバイクが何台か倉庫にあるが、それで良かったら安く売ってもいいという事だったので倉庫を見に行った。さすがに下取り車でその上売れ残った物なので古くて故障しそうでとても毎日の仕事では乗りたく無い物ばかりだった。そんな中に埃を被った銀色のVT250Fが一台あった。もっと年代の新しいVTZだったらばっちりだったのにと思ったが、それまで自分で乗っていて信頼性もあったので買う事にした。

銀色の、HONDA VT250F
アンダーカウルも付いている。

買ったのは1989年半ば。
走行距離は、10,000Km台だったと思う。

一通り納車整備とタイヤ交換をしてもらい価格は7万円程。安くあげるため確かタイヤは新品の物ではなく登録も自分で陸運局に行った。それにしても洗車された銀色のVT250Fは見違える程綺麗だった。

バイク便をやっている時は少なくとも一日一回は危険な目にあった。

仕事中にこけたのは二回。渋滞中、急な左折車に巻き込まれそうになって止まり切れず軽く接触転倒。雨上がりの首都高の渋滞をぼーっとすり抜け中、他車の挙動にちょっと強くフロントブレーキを掛けすぎてスリップダウン。幸い二回とも大事には至らなかった。
また、バイクのトラブルも大小取り混ぜ色々な事があった。発進加速中にチェーンが切れて巻付いてロックして停止。首都高の上で鉄屑が刺さりタイヤが大きく裂けパンク。仕方が無いのでそのまま低速走行。冬の雪の舞う日にはオーバークールでエンジン停止。クラッチアクセルのワイヤー切れ、スピードメーターケーブル切れ、ヘッドライトのバルブ切れ、ヒューズ切れ、雨の日のリーク、パンク、etc、数え上げればきりが無い。

反則金も二回程払った。横浜市内でレーダーの待ち伏せに遭い僅か15Kmオーバーにもかかわらずキップを切られた。もう一回は、名古屋に荷物を届ける時に東名高速で覆面パトカーを抜いてしまい御用。お陰でその日の稼ぎはパーになってしまった。

気が付けばバイク便を始めてすでに三年以上も過ぎていた。

仕事仲間もだいぶ入れ替ったし、悲しい事故も幾つかあった。
好きでやっているとは言え、冷静に考えてみると体を張ってやる仕事の割には収入は少ない。
1990年秋に、精神的肉体的にもう持たないと思いバイク便を辞める。

HONDA VT250F は同僚に譲った。


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