開田ことば講座・その2

言葉は変わる...共通語と方言 ☆


古語の面影を残す開田の言葉を知るために、始めに日本語の背景を少々。

私達日本人の先祖は、中国から伝えられた漢字を十二分に使いこなして、独特の文化を創造したり、またその一部を利用して「カナ文字」を創造しました。

象形文字を基幹とする漢字は、字が意味をあらわす表意文字でもあります。
「かわ」では「川」か「皮」か分かりませんが、漢字で書けば明らかです。

開田の方言では「皮」は「カー」と発音し、「川」と区別しています。


「かわ」の発音使用例を聞いてみたい方は、こちらです。(音声部分をクリック)
単 語
使 用 例
★ 使用例の音声 ★
川に行って魚を取って来た。
カワイッテ イヲトッテキティヨォ
皮をむいて食べなさい。
カームイテ クュアー

漢字を使う国では、言葉は文字と結びついて豊かな発達をとげましたが、日本語は表意文字である漢字と結びついているところに特徴がありました。

「スゴイ」という言葉は、「おそろしい」という意味をあらわすものです。
だから昔は、「スゴイ」という形容詞のあとには「スゴクおそろしい」「スゴク醜い」「スゴクきたない」という否定的表現が伴ったものです
昔は決して「スゴク美しい」「スゴク明るい」「スゴク立派だ」などとは言いませんでした。
今は平気でそれが使われています。
おまけに最近では「すっごく きれい」などと力をこめた用語もあります。

同様に、話の区切り(語尾)に力を入れてしゃべるのも、話し言葉が感情に訴える方向に、日本語が変化しつつあることを示しています。
また、最近ひろがってきているゼスチャーをまじえた話し方は、聴覚と視覚に訴える話し方で、これらの傾向は、表意文字が言葉に及ぼした影響が次第に薄れつつあることを示すものです。

次に、言葉は時代と共に変化するものである事を、若干の具体例で明らかにしてみましょう。

「スゴイ」という言葉の使い方が変わったことを記しましたが、今度は発音の変化についてみてみます。
「絵」は今では「エ」ですが、昔は「イェ」でした。
「枝」の「イェダ」、「遠州」の「イェンシュー」、「女」の「ヲンナ」。
これらはすべて古い発音ですが、よく調べてみると、室町時代の標準的日本語の発音であったことが分かりました。

万葉の詩の1つをみてみましょう。

「をとめらが さなすいたどを をしひらき
いたどりよりて またまでの たまてさしかへ さねしよを」

これでは何のことかよく分かりませんが、次のように書き替えてみると大体意味が分かります。

「をとめらが さなす板戸を 押し開き
い辿りよりて 真玉手の 玉手さし交へ さ寝し夜を」

封建時代の言葉でさえも、今の私達には分かり難い言葉があります。
例えば、「四つ辻」という言葉。「交叉点」と言わねば分かりかねます。

このように、言葉も時代とともに変わってきたのもので、これからも変わってゆくでしょう。

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開田村に伝わる方言と訛語の話の前に、まず「方言とは何か」について明らかにしておきたいと思います。

よく方言と標準語を対置させて、方言は一般に通用しない、いわば田舎言葉で、標準語こそが立派な日本語であるように考える向きもあります。
例えば、
「開田の言葉は分かり難くて世間に出て通用しない」
「開田の子供達が学校を出てよそへ行くと、変な言葉を使うので、人に馬鹿にされる」
といったように、標準語を覚えてよそへ出ても恥をかかないようにしたい、などと思ってしまうのもその1つです。
しかし、ほんの少しだけですが上記に説明したように、言葉が生まれてきた歴史的経過とその変化の過程を辿ってみると、決してそうではありません。

開田の方言のなかには、古い万葉言葉の影響が残っており、また、その地域的関連を調べてみると、飛騨から関西にかけての共通性が多くみられます。
そして、言葉は人間の移動についていっしょに移り広がったもので、方言を研究することによって、その土地の住民の歴史を知る有力な手がかりにもなるのです。

古来、文化の伝播は、道と川に沿って浸透したと言われています。
集落の形成が道と川に沿って発達したと同じように、言葉の伝播も交通路を人が歩むにつれて伝わり広がったものです。
従って、方言を調べることによって、その地方の文化の脈絡をつかむことも出来ます。

そこで、方言の性格を要約してみると、言葉の歴史的変化からとりのこされて、ある地方に残った古い日本語、というものになります。
そして、方言には、その土地のにおいがしみついており、1つ1つの方言のなかに、その土地の人々の喜びや悲しみが秘められています。

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さてそれでは、開田の方言に秘められたものは・・・? 次回に続きます。

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<単語帳>

筆者が今でもよく使う面白い言葉・・・主に末川地域のものです

単 語
意 味
使 用 例
★ 使用例の音声 ★
アイバシテ 遠いところをわざわざ歩いてきてくれてご苦労様でした。
見舞いや会葬への御礼の言葉によく使う。
わざわざ来てもらって悪かったね。

アイバシテ ワリガッティヨー
ダバケル ふざける。
ふざけるな 。(「ボー」は相手が男の場合の呼びかけ)

ダバゲンニャ ボー!
アバァ アバヨのヨがとれてアバになったもの。案配よう(うまく行くように)の意。
「帰路無事に」の意を込めた別れの挨拶
それじゃあ、さようなら。

ソイジャ アバァ!

 

 


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